勇ちゃんの課題曲解体新書 はじめに

2020年度の全日本吹奏楽コンクール課題曲について、なにか書いてほしい――そう言われて、「わたしで良ければ!」とお返事したものの、よくよく考えてみると一体なにを書けば良いのか…。

課題曲については、プロの(ウインド)オーケストラ奏者、指揮者や作曲家の先生方が、それぞれの視点から色々と書いてくださっています。

さらに最近では、ネットを用いて自身のサイトやYouTubeなどで課題曲についての解説を配信される方も増えてきています。

このような解説はためになるものばかり!

そんな中で、わたしに書けることなどあるのだろうか。そう考えていると、だんだんと課題曲について書くことが怖くなり、そして思い出したのです。

「そういえば、課題曲について書くの、嫌なんだった…!」

そう。毎年何かしら課題曲について書く機会のご相談をいただくのですが(大変ありがたい!)、それをのらりくらりと避けて生きてきたのです。課題曲について書くことの、なにがそんなに嫌なのかと言うと、他の方が書いた解説などの分析や解釈と異なることがあると「○○先生はこう言っているのに!」というような反応をされること、この一点に尽きます!

しかし、今回このような機会をいただいたので、伝えたいことはしっかり伝えようと一念発起した次第、というわけなのです。

なにを伝えたいのか、それは簡単。

分析は人によって結果が異なる

ということ。

「○○先生がこう言っているからそれが絶対に正しい」とか「△先生がああ言っているのに、おまえの分析はおかしい!」ということはないのです。

分析には明らかな間違いというものはありますが、確固たる正解はありません(そう、厄介なことに明らかな間違いはあるのですが…)
分析者によって、分析の目的や視点、分析方法が異なれば、結果は自ずと変わってくるのです。しかし、突き詰めていけば、最終的な結論は一致するのですが、これはまた別のはなし…。

つまり、どのような曲を分析するにしても、分析する人が10人いたら十通りの分析の目的があり、そして、十通りの結果が出るわけです。それは、音楽の解釈にしても同じです。これが分析や解釈のおもしろいところなのですが、なかなか気が付いてもらえない…。

というわけで、今回のわたしの課題曲の分析も、100万を越えると言われる日本の吹奏楽人口のうちのひとりの考えとして読んでみてください。

これは、わたしの分析だけの問題ではなく、他の分析にも同じことが言えます。ネットや雑誌などでみなさんが目にする解説や分析も、それぞれがみな価値のあるものなのです。もちろん、料理と同じで味の好みはありますが!

色々な人の分析を見て、解釈を知ることで、自分の知っているはずの作品(課題曲)の新しい面が見える…かもしれません。
これは自戒も込めて書きますが、なにかひとつの結果や意見に縛られることなく、おおらかな心で作品と語りあってみましょう!

分析の準備

用意するもの
・総譜(フルスコア)
・分析する曲のCD等の演奏
・吹奏楽連盟が発行する会報『すいそうがく』(2019年12月号)

この後の分析では小節番号や練習番号を書いていくので、総譜があると便利です。

また、分析する曲は何百回、何千回でも、好きになるまで聴きましょう。その際に、最初は総譜を見なくても良いです。ともかく、最初は曲が自分の身体に入っていくまで、何度も何度も聴いてください(わたしもこれを書きながら今年の課題曲を繰り返し聴いていますよ)!
最初から分析しようとする必要はありません。ともかく聴いて、「あ、ここは好きだな」という部分や、「なにか気になる…」という部分を一ヶ所でも見つけてみてください。

念のために一言加えておくと、これは課題曲の練習のために演奏を何回も聴いてくださいと言っているわけではありません。あくまで、分析を行うために聴いている、ということは頭の隅に置いておきましょう。

嫌いな曲は、どうしても分析は進みません。
なんだかバカみたいな話ではありますが、やはり「曲と友達」になることが、分析への入口になります。

さて、準備はできましたか?
それでは、5つの作品に広がる世界へ、一緒に一歩踏み出してみましょう!


石原勇太郎(作曲・音楽学)
時に音を紡ぎ、時に言葉を紡ぐ音楽家見習い。東京音楽大学大学院修士課程音楽学研究領域修了。同大大学院博士後期課程(音楽学)在学中。主な研究領域は、アントン・ブルックナーとその音楽の分析。1991年生まれ。2014年、第25回朝日作曲賞受賞。Internationale Bruckner-Gesellschaft(国際ブルックナー協会)、日本音楽学会各会員。 【公式サイト:http://www.yutaro-ishihara.info/】【ティーダ出版お取り扱い作品一覧

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